---第33号特集記事---


―セカンドオピニオン

患者と医療者の新たな信頼関係を求めて

2004年10月 シンポジウム講演録 (前半)


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講  演  者
埴岡健一さん 医療ジャーナリスト
南雲吉則さん キャンサーネットジャパン代表・医師
山下浩介さん 神奈川県立がんセンター放射線科医師
かながわ・がんQOL研究会
石井 猛さん 千葉県がんセンター整形外科医師
上野 創さん 朝日新聞記者 がん体験者





埴岡 健一 さん 医療ジャーナリスト・セカンドオピニオン発起人)
埴岡です。僕は36歳の時に妻を亡くし、それをきっかけにボランティアをやっています。ひとつは、妻が骨髄移植を受けた際に提供してくださったドナーの方、また、いろんな医療者やボランティアの方に支えていただいたので、そのお返しをしたいという気持ちから。そしてもう一つは、「もっといい医療に出会えたんじゃないか」とか、いろんな節目に「あの選択で良かったのか?」などと考えることがありますが、心から医療がもっとよくなってもらいたいという気持ちもこめてボランティアをしています。

仕事の方は、経済ジャーナリストだったのですが、医療をもっと勉強したいと思い、今は医療ジャーナリストとして活動しております。いろんなことをやっていますが、患者さん・利用者の視点を忘れないようにしたいと思っています。

スライドにそってお話していきたいと思います。

今日お見えの方はどういう立場の方が多いのでしょうか。患者関係者の方、ちょっと手を挙げいただけますか? 医療関係者の方? だいたい7:3か8:2ですね。基本的には患者の視点でセカンドオピニオンの話をしますが、医療関係の方にも参考になると思います。患者も医療者も同じような気持ちで、セカンドオピニオンに取り組んでいただきたいと思っているところです。
アメリカでセカンドオピニオンを経験  

96年にアメリカで妻が急性白血病と診断され、ニューヨークのスローン・ケッタリング病院に入院しました。その後シアトルのフレッド・ハッチンソン病院で骨髄移植をして、無事移植が終わりましたが、しばらくして再発して残念ながら亡くなりました。

そして、今日のテーマ「セカンドオピニオン」ですが、ニューヨークのスローン・ケッタリング病院で治療方針について相談したら、4人の先生が皆違う意見だった、という経験をしました。主治医のガブリラブ先生は、非血縁ドナーの骨髄移植を勧めました。ジュルシック先生は「化学療法を継続した方がいい」ということでした。それからバーマン先生は、一応主治医と似た考えなんですが、ちょっと移植に消極的な考え。ワイス先生は全く別の自家骨髄移植という特殊な治療法を勧める、という状態でした。

僕は当然ベストな治療法というのが一つ決まっていて、それを考えてくれているのだろうから、ある程度任せておいていいと思っていたのですが、それぞれ意見が違うので、これはどういうことかと思ったわけです。アメリカではこれが常識的なことだということがあとでわかったんですが、主治医が「セカンドオピニオンをとりますか」と聞いてくれましたのでそうすることにしました。

最初の医師から紹介状・カルテ・画像・サマリー(病状のこれまでの記録を要約したもの)を貰って、東海岸の端っこから西海岸の端っこまで移動して、実際に診療を受けました(交通費や滞在費は保険がサポートしてくれました)。診察を受けて複数の医師、医療担当者とお話をして(カンファレンス)、施設見学もして帰ってきたわけです。そしてセカンドオピニオンの医師から主治医へ報告書が来ました。セカンドオピニオンの意見は、全然異なったものでした。「非血縁ドナーからがいい」と言っていたニューヨークの医師に対して「血縁ドナーがいい」、また、ミスマッチ移植というのをやろうというのです。ところが、面白かったのは、元の医師が意見を変えて「確かにそうかもしれない。そっちにする」と言って、ファーストオピニオンとセカンドオピニオンが一緒になった。そこで、主治医への信頼が揺らぎました。つまり、元々主治医は意見が曖昧だったこと、結果的に後追い的な意見になったということと、その移植の方法がその病院では初めての症例であることを聞いて、転院することに決めました。

そういう経験をしてつくづく思ったのは、「医師は完璧じゃない」ということでした。いろんな情報を集めながら考えて、意見を修正していく。医師も24時間考えているとは思うんですが、担当のたくさんの患者さんのこと、研究のこと、いろいろ合わせて24時間ですが、患者本人・家族は自分のことだけ24時間考えていますので、当然、真剣さに差があります。

医師も人間です。医療は進歩していて、白血病の治療にしても、20年前だったら何もなくて、手を打てなかったんですが、今はいろんな選択肢があるが故に悩みがある。だからセカンドオピニオンは必要だと思う。もっと端的に言うと、医師・病院によって成績、満足度、体制が違うからセカンドオピニオンをとった方がいい。成績が違うと治療法も違うということがよくあります。

病院の実力をどう評価するか

ということで、ニューヨークの病院からシアトルの病院に移りました。一年前の成績を分析してみると、治療成績の点から言えば、アメリカの骨髄バンクの認定施設のうち、84位中36位の施設から1位の施設への転院だったということがわかりました。

セカンドオピニオンはいろんなことがありますが、だいたい三つの観点、@成績 A満足度 B体制で考えるというのが、一つの尺度かと思います。私たちがやったセカンドオピニオンそして転院は、成績の観点からみると、アメリカ中位の成績から上位の成績への転院でした。スローン・ケッタリング病院というのは、世界でもモデル的な非常に有名な病院ですが、疾病・手技・手術の仕方、療法によって、それぞれ得手・不得手があるわけです。骨髄移植に関してはアメリカで中くらいの病院に過ぎなかったということです。

(スライド)これは骨髄移植をしている病院で、移植例一番の病院は522例やっていますが、少ないところは30例くらいだったり、いろいろです。それから症例の難度。一番上の病院は実際の生存率57.3%の成績をあげていますが、これくらいの難しさの症例では普通は42.2%の生存率なので、57.3%というのは(38.3%〜46.4%の間に収まっていたら普通の実力なんですが)随分上回っているので優良だということです。そういうことで、妻は結果として36位から1位の病院に転院したのです。
最近はランキングブームですが、病院で実力が違うとなればそれぞれの意見を聞いたり、必要があれば病院を「変える」という判断が出てくると思います。日経ビジネスと日経メディカルの「もし自分や家族が病気になった時、行きたい病院、行かせたい病院はどこか」という医師に対するアンケートを見ると、どうやら医師も病院による実力差があると思っているようです。

(スライド)厚生労働省の補助金でやった研究の結果を見てみましょう。例えば、乳がんの進行度合いによる成績です。ステージTの場合の成績とステージUの場合の成績を示しています。赤い字のところが標準よりもいい成績、青い字のところが標準よりも悪い成績です。このように治療成績が違いますからよく考えた方がいい。
大腸がんでも、例えば大阪のデータですが、少しだけがんが広がったところのステージで、生存率80%のところから42.8%のところまであります。どこの病院でも成績も満足度も体制も一緒だったら、あまり悩まずに最寄のところへ行った方がいいのですが、違いがあるからよく考えないといけない、ということになると思います。

(スライド)これは白血病の移植に関するデータですが、標準成績よりも4割成績がいい病院と3割劣る病院まで、病院の実力差というものは幅があります。症例の選び方も、全体として標準よりも2割くらい難しい症例を扱っている病院から、3割くらい易しめの症例を選んでやっているところまでいろいろです。難しい症例を扱って良い成績をあげているところ、難しいことをやって低めの成績、易しいことをやって高い成績、易しいことをやっているのに成績が悪いところもある。
しかし、日本で、はそういうことも含めて見れるようなデータになっていないんですね。こういうことはデータでパッと見て、それ以外の治療法とか環境とか人柄などを見ればすむというのならいいんですが、「どれくらい症例を扱っていますか」「どれくらいの成績ですか」と聞かないとよくわからないという状況なのが、ちょっと残念なところで、変わらなくちゃいけないと思います。

(スライド)患者満足度も全然違います。実際に患者さんに聞いた調査でも、160くらいの病院をランキングしたんですが、1位が240点、10位くらいだと160点くらい、下の方はほとんど20〜30点とかで、満足度が全然違う。病院を選ぶということはとっても難しいということになると思います。

セカンドオピニオンの選び方

では、どうやって選べばいいのか? 治療法で悩んだ時、セカンドオピニオンをとる時に具体的にどうすればいいのか? 今ボランティア活動「セカンドオピニオン・ネットワーク」をやっています。具体的にセカンドオピニオンをとれる医師のリストを掲載していますし、「セカンドオピニオンを上手にとるコツ」という詳しいハンドブックをHPにのせております。

小さなリーフレットがお手元にあると思います。自分では聞きにくいときは、「こんなのが置いてあった」とか「こんものを見たんだけど」と、パンフレットのせいにしていただければいいと思います(笑)。いろいろお話しても、「勝手にしなさい」とか「どうなっても知りませんよ」と言う医師がまだいるんですね。また「もう戻ってこられませんよ」という言葉が出るかも知れません。セカンドオピニオンというのは本来的には話を聞いて戻ってくるというのが本筋ですけれど、いざという時には転院ということもあっていいと思います。

セカンドオピニオンを誰に聞けばいいかということですが、さき程出てきたDrワイス(ニューヨークの医師団の一人)は、今から考えると一番不合理な選択肢を教えてくれた医師ですが、そのとき名言を吐きました。「散髪屋に行って散髪した方がいいかどうか聞いてごらん。散髪を勧めるに決まっているさ」と言ってウィンクしました(笑)。彼は自分のバイアスによって意見を言ったけれども、医師の発言自体にバイアスがあるんだよ、ということを教えてくれたわけで、名医かどうかはわからないけど、良い人だったかも知れないと思います。

セカンドオピニオンの相手が主治医の弟子ならば、同じ医局で同じ教育を受けているのですから、あまり変わらないということになると思います。別の放射線科医とか、総合診療をやっている医師に聞くとか、腫瘍内科医に聞くとか、「誰に聞くか」ということが大切です。

医師を探すパターンもいろいろありますが、ちょっと考えると「コネクション型」、同門の医師を紹介してもらう。それから考え方の違う全然別のタイプの医師。あと我々がやっているセカンドオピニオンリストを使う。コネクション型は、一度聞いてしまうとちょっと離れられなくなるといった弊害がある場合もあります。「同類型」というのはどれだけ意味があるのかよく考えてすることが大切です。違う意見を聞くということであれば、「カウンター型」とか「オープン型」ということを考慮されるのがいいのではないでしょうか。


セカンドオピニオンは治療を始める前に取るのが原則

“セカンドオピニオン”といわれているなかには「セカンドオピニオン」と「セカンドオピニオンもどき」というものがあります。非公式な相談も“セカンドオピニオン”と言ったりしますが、やはりちゃんと専門医に公式な診察を受けるということが本当の“セカンドオピニオン”だと考えていただきたいと思います。

セカンドオピニオンは、早めにとった方がいいと思います。がんでいえば、初発の時ですね。治療開始前、第一治療方針選択前というのが原則です。その他いろいろ治療方針を再考したり、再発したので次の治療選択をしなければならないとか、あるいはちょっと手詰まりになったなかで緩和的なことをどうするか等々、常にセカンドオピニオンというのはあり得るんですが、やはり一番効果的で大きな道の岐路になるのは最初の方です。

セカンドオピニオンというのは、一回だけでなく、闘病の間に何度もいろんな形で聞きたくなるものです。ですから必要に応じていろんなタイプのセカンドオピニオンを考慮する。例えば、どこの病院がいいかとか、移植するのがいいのか、しないのがいいのかといった大きな方針についてもあれば、ガーゼの当て方なども病院によって全然違ったりするんですが、そういうことが致命的になることもあるわけですし、いろんな悩みがあります。あまり細かいことはいちいちセカンドオピニオンをとれませんが、現実的には大きな治療方針だけじゃなくて、いろんなことを継続的に聞けるような場がほしいと思います。今、メーリングリストやいろんな患者会がありますので、必要に応じて聞くのがいいのではないかと思っています。

患者・医療者双方にメリットのあるセカンドオピニオン

お配りした資料の中に「セカンドオピニオン7か条」というものが入っています。まとめますと、セカンドオピニオンは患者側のメリットと医師側のメリットと両方あると思います。患者側のメリットというのは、はっきり言って「助かる」「助からない」の違いがあるということです。より多い治癒への可能性、また、よりよいQOLが得られるということがあります。それから、不要な治療の排除。がんの事例では「切らなくてはいけませんね」と言われ、別の病院に行って病理で診てもらったら、「悪性ではない」といったケースがありますし、逆に、セカンドオピニオンに行って、最初はがんではないと言われていたのに、がんだったということもある。違う診断がなされ、命が助かった、また、無駄な手術をしなくてよかった、ということも起こります。また、セカンドオピニオンをとってみたら全く同じ意見だったということで、「ああ僕の先生はシッカリしているな。これでよかったんだな」と信頼感が得られ、安心して闘病できるということもあります。

逆に医師の方からみれば、治療方針が確認できたり、知識が向上する。例えば最初にお話したニューヨークのスローン・ケッタリング病院では、シアトルの病院の見解を聞いてもう一度勉強しなおしたんですね。論文を見直したり、いろいろ聞いて、シアトルの病院の成績も考えて方針転換をしたわけで、それはある意味では知識の向上になっているわけです。誤診を防止したり、それに伴って訴訟トラブルが防止できたりもする。「あの先生は受付にセカンドオピニオン・ネットワークのリーフレットをおいてあるし、壁にセカンドオピニオンに協力すると貼ってあるし、いい先生じゃないか」ということで、評判もよくなるかも知れません。評判がよくなると、いい医師であり続けようというプレッシャーで、よりよい医師になる。そういう効果があるんじゃないでしょうか。

最終決断は患者自身がする時代に

セカンドオピニオンはいいことばかりではありません。「咀嚼」する力が要求されます。いろいろ聞かされると、一巡聞いてみたら二巡目も聞いてみないとよくわからないとか、聞けば聞くほど質問がもっと出てきたとか、なかなか大変です。単純に、聞いた意見がこっちが10点、あっちが8点、だから10点の意見が勝ち、というわけにはいきません。それぞれに一長一短があるとか、「あなたの好みで選んでください」とか、「あなたの人生観やライフスタイルも関係します」と言われて、じゃあどうすればいいのか、自分の選択と決断を迫られることはよくあります。

当然、闘病の中で自分の体がシンドかったり、家族とも修羅場をくぐり、日常的にも忙しくて感情的にもいろんなものが去来するなかで、それを整理整頓することはなかなか大変です。また、悪い知らせに耐える力が必要ですし、支えてくれる人も必要です。どちらの意見も一致したり、いい治療法が見つかればいいのですが「これは難しいです」とか「これは非常に困難です」と言われることもあります。「生存率は20%です」なんてことを言ってしまう医師もいるかも知れない。そういうことにも耐えて咀嚼していかなければなりません。

今日のテーマは「患者と医療者の新たな信頼関係を求めて」ということですが、今、患者はいろんな情報を得て、自分が少しでも治るように努力すればできるようになっているし、そうしなくちゃいけない時代になってきているのではないかと思います。これを僕は仮に「e患者」と言ってるんですけど、自分達で考えて、インターネットなどを利用して、情報・知識を集めていろいろ勉強してください。以前は勉強をしようと思っても出来なかったのですが、今はやる気さえあれば勉強できます。そうなると、医師との関係も変わってきます。パターナリズムという言葉を聞かれたことがあるでしょうか。医師が患者に「こうせよ!」という一方的な上下関係のことです。でもこれからは、患者・家族がいろんな情報で勉強して、医師と「あそこはこういう成績。こういうやり方。私たちはこういうやり方がいいと思いますけど」と議論して決めていく。「悔いのない選択をする」ということが、やっとできるようになってきたし、やらなくてはいけない。最初の治療選択に際して、セカンドオピニオンで態度を決めなくてはならない。やはり大事なことはタイミングを考えることです。治療をしたあとで情報収集したり、セカンドオピニオンを聞いて、違うとわかっても元には戻れません。「セカンドオピニオンは治療選択の前に!」ということを意識することが大切です。患者がまず勉強して、情報を持って議論するということ。そして、医師と上下関係だけじゃなくて一緒に同じ目線で議論して、よりよい治療法を求めて行くという時代だと思います。

実際の場面では、医師に面と向かって何が言えるのか、ということがあると思うんですが、「遠慮は損!自分の命と体のことだから」ということを申し上げて、今日のお話を終わりにしたいと思います。



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