---第31号特集記事---


―気功と代替療法・統合医療(2)


百々雅子 氏 (1/2)
聞き手:五十嵐昭子






代替医療に共通するのは免疫力を高めること  

五十嵐:今回も引き続き「α」の気功を指導してくださっている百々さんにお話を伺います。 さて、前回で気功についてはおおよそ知りたいところが聞けたと思いますから、今回は他の代替医療や統合医療の方へ話を進めていきましょう。百々さんは代替医療の研究をされてもいるわけですが、では代替医療とは何かというところから聞かせてください。


百々:代替医療は“西洋医学以外のすべての医療”というもっとも広い定義が、私はまずは妥当なものと考えています。代替医療そのものが西洋医学に対抗する形で1970~80年代にかけて西洋社会で出てきたといういきさつからして、とりあえずこの広い定義でいいかと思います。 具体的にどこまでを代替医療に含めるかとなるとむずかしいものですが、アメリカで1980年代始めに代替医療の本を著し、日本でもその後有名になったアンドリュー・ワイルは『人はなぜ治るのか』(日本評論社)において、世界の西洋医学以外の主たる医療を紹介した後、まじないやそれに類するものでも人が治っている現実に触れています。さらに、これらすべての医療に何ら共通点がないばかりか、それぞれ全く相反することさえ主張している。そうなると人が治る上で重要なのは定まった一つの医療法ではなく、結局どんな医療であるにせよ自己免疫力を刺激し、高めることのできるものが治療として有効なのだと結論しました。おそらくこの文脈からするとワイルは現代人の多くはあまり信じたがらないまじないをも代替医療に分類できるというのだと思うのです。じっさい現在代替医療を紹介する本などの中にも、まじないは「シャーマニズム」として出ています。

五十嵐:まじないも代替医療に入れることには違和感を覚えますが、ワイルの主張は治療法の形式はどんなに違っても、結果として免疫力を高めるというところに共通点を見いだしたわけですね。

西欧では保険適用の自然医療も

五十嵐: ところでいま西洋では具体的にどんなものが代替医療といわれているのでしょうか。

百々: 少なくとも150種類以上の医療があるといわれ、代表的なものには中国医学(漢方、鍼灸、気功)、インドのアーユルベーダ医学、アラビアのユナニー医学のような伝統医学から、現在日本にも広がっているアロマセラピー、ホメオパシーにフィトセラピー、整骨のオステオパシーやカイロプラクティックなど、ビタミン療法、種々の食事療法、変わったところで水晶を使うクリスタルヒーリング、先に紹介したまじないの類としてシャーマニズムなどがあります。五十嵐さんは、まじないには疑いをもたれていますがこれは原始的な社会の医療ですが、要は現代の心理療法とかイメージ療法にきわめて近いものであるはずです。
 
最初にあげた伝統医学はきちんとした理論と経験をもって何百、何千年と積み上げられてきたものなので、本場の中国やインド、アラビア諸国からすると他の様々な医療と一緒くたにされて心外の極みかも知れません。しかしヨーロッパではとりあえずこれらをいったん代替医療として、それらから人々のニーズがあるものや根拠に一般性があるものをいくつか選び出し、健康保険対象に組み込んで「代替医療」という名前でなく「自然医療」という総称に変えて呼び直しているのが現状です。
 
「自然医療」というのは代替医療の多くが自然の、主に動植物や鉱物を使ってそれを薬にするか、副作用など侵襲性の低い医療方法をもっているからです。


五十嵐: そうなると保険医療になっているものはとりあえず信頼できるということですか。

百々: 治癒率をもって信頼できるというデータはまだ今後に負うところは大きいのだけれど、それに西洋医学と全く違う理論体系なので、科学という西洋医学の土台に乗せて評価するのは困難なことでもあるのだけれど、とりあえず、正しく扱うことで何らかの効果が見られ、その上副作用などの害がでない、ということでは信頼できるということになるでしょう。
 
しかしこれは国が大規模な調査をしたというよりも、それを使用してきた人々が体験済みということで、経験による信頼が主です。もともと人々のニーズが代替医療の一部を保険医療とする後押しをしたとはいえ、20世紀も後半になって病気の種類も社会の変化によって変わってきて、がんや糖尿病を始めとする慢性的な病気やエイズなどの感染症に西洋医学が必ずしも功を奏するとはいえない現状を考慮するとき、病人ばかりでなく医療側も異種の医療を認めないわけにはいかなくなっている、という時代背景もあります。抗がん剤の効果も30%程度だといわれるし、その上副作用がある。
 
また、アメリカでは、西洋医学によって手の打ちようがなくなったとき、医師が代替医療の紹介をしないと患者側が訴えることができるというような社会事情もあり、医師はその教育課程においてすでに代替医療の知識をもつようにカリキュラムが組まれているのです。
 
日本でも医学部教育において漢方、あるいは中国医学の知識を一定の期間受けることを文部科学省は強く進めているのも、患者側のニーズ、つまり保険料を支払う側のニーズを考慮してのことです。

五十嵐: 日本の場合、それは西洋医療の現場で医師が漢方を処方できるようにするということですか。

百々: いえ、まずは患者側が漢方についてたずねるとか、すでに使用しているといった場合に理解できるのが目的です。もちろん医師は漢方を処方できるのですが、こうしたカリキュラムは多くて20時間ということなので6年間という医学部の一貫教育のなかでの時間の割合を考えると、西洋医学同様複雑な内容をもつ中国医学が、これで使えるようになるかは疑問がもたれています。
 私が最近調べているフランスの場合、代替医療のうち保険対象になるものは一つ一つについて認定制度になっていて、医師資格を持つ者が大学でさらに3年程度かけて学ばないと取り扱うことができないという、かなり濃密な教育制度をつくりました。信用の基礎をここにおいたのです。


五十嵐: フランスの保険対象になっている医療はちなみにどんなものがありますか。

百々: 主にホメオパシー、ナチュロパシー、フィトセラピー、オステオパシーという西洋で発達した医療に加えて、中国の鍼があります。ホメオパシーと鍼は人気があるようです。
 
これらの治療は医師と専門の療法家から受けることができますが、保険が利くのは医師によるものと限定されています。

日本の代替医療の現状は?

五十嵐
: 日本では保険が利く医療といえば、漢方といってもツムラの何番というように、万人向けに一律に調合された製剤がほとんどで、証をみて生薬を調合してくれる漢方で保険が利くのはゼロではないけれど、ごくごく少ないのが現状ですね。それと整骨ですか。中国由来の鍼灸は保険が利きませんね。

百々: 鍼灸が好きな人やその必要がある人には残念なことですね。日本は歴史上早くから中国医学を取り入れ、とくに江戸時代は漢方として独自の発展を遂げた経緯もあるのに、それが明治政府の西洋医学への切り替え政策以来、長くとぎれてしまいました。西洋医学を学んだ医師以外には医師免許が与えられなくなってしまった結果、漢方は発展どころか継承さえ不可能になってしまったのです。
 
漢方は診断方法からして技そのものです。たとえば脈に触れ、身体に関して28の情報を得る脈診という診断法を考えてもらうと分かるのですが、これは教科書で伝えられるものではなく、指導者から伝えられ、経験で獲得していく性質のものですから、この伝達が2世代でもとぎれてしまえば復興させるのは至難の業です。だから現在では漢方の処方も漢方本来の診断法、今お話しした脈診以外に舌診、腹診などを診る診断法は使われないのがほとんどで、というより使えないために西洋医学の診断法から、あとは体質をいくつかに分けて薬を処方している現状です。代替医療が必要とされる現在になって、これがもっと本格的に、つまり医療の提供者側の知識や技術が深まり、それを患者が安心して保険でかかれるという状態でないのは惜しいことです。
 
中国やお隣の韓国では、西洋医学と伝統医学が並んで使われてきていますので、つまり西洋医学の導入によって伝統医学が否定されることがなかったため、人々は二つの異種の医療があるのが当たり前のものとして、場合によって使い分けたり、平行して使ったりしています。中国は本家本元だから当然だとしても、韓国に取り入れられた、というより朝鮮半島に伝えられた中国医学は日本同様独自の発展も遂げたのです。

五十嵐: 江戸時代の日本の漢方同様、内容が変化していったということですね。

百々: ええ、それは医療が民族を越えていくときあってしかるべき変容です。なぜかというと、一言でいえば風土が異なるからです。水も違う、風や気温、湿度といった気候も違う、この中で生きる人の身体の質も違うし、病気も違う。中国医学の治療法の大黒柱である漢方薬は動植物や鉱物を原材料とします。これらはその産地近くに生きる人には効果がある。先祖代々その風土に生きてきたのだし、また何千年もそれを摂取して病気を治してきたのですから。
 
韓国では中国医学は現在、「韓医学」と呼ばれて医学を志す学生たちのなかでももっとも優秀な学生たちがこれを専門としていき、西洋医学の人気は2番目だというのです。ただ、この理由は医師になって韓医学を標榜すると西洋医学の医師のように忙しくなく、しかも収入が何倍だという経済的な理由、いわば裏の理由があるのですが。(笑) 患者側も韓医学の予防薬としての利点をよく知っていて、ボーナスが出ると親孝行のつもりで、そこは儒教の国ですから、まずは両親を韓医学の医師の元に連れて行き漢方薬を処方してもらう。自分たちの分は金銭の余力がある場合だけらしい。(笑)
 
私がいいたいのは、隣国ではこれほど伝統医学が医療者と患者というか医療の利用者に、いろいろな意味で大切にされているということなのです。


五十嵐: 西洋医学はヨーロッパから世界に広がったわけですが、受容した国で中国医学ほど変容したとは考えられません。なぜなら西洋医学においては人間の身体はみな基本的に同じであり、ある薬を投じた場合、ほぼ同じ効果を示すというのが原則ですから。普遍性、一般性という現代科学の原理を共有してきた理論体系をもつことが西洋医学の強みですからね。
 
ただ、日本ではアメリカで認可された薬が、もう一度日本の臨床試験に通らないと認可されない、という仕組みになっていて、その理由に「人種による薬への反応の違い」をあげています。ある意味では、普遍性だけではなく、個別性にも目を向けつつあると言えると思います。ただ、本当にそれだけの理由なのか、それとも日本の製薬会社を保護するためなのかは定かではありませんが。新薬に望みをつないでいるがん患者さんからは、ハードルが高すぎるという批判もでていますね。


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