2004年東大医学部5月祭 「現代医療の羅針盤」〜東大医学生の航海〜より

「セカンドオピニオン」

東京大学医学部 永井達哉

第1節 はじめに

 近年、医療技術の進歩により治療の選択肢が増えつつあります。このことは理想的には、患者さん自身が望まれるQOL(quality of life、生活・生命の質)をより満足させることのできる治療法を、納得して受けられる、という状況を生み出すと考えられます。
 しかし、多くの患者さんはどこの病院にかかればいいだろうか、これから受けようとしている治療法は最善のものだろうか、という悩みと迷いを抱いています。なぜこのような問題が生じているのでしょうか。原因としては、1人の医師の情報には限りがあること、医師の説明不足、インフォームドコンセントの理念から患者さんに自己決定・自己責任が求められるようになったこと、などが挙げられます。
 そこで、この問題に対する1つの解決法として、セカンドオピニオンに焦点を当てたいと思います。


第2節 セカンドオピニオンとは

 セカンドオピニオンとは、主治医以外の専門医に診断や治療法について第二の意見を聞くことです。
 このシステムは1970年代にアメリカで生まれました。医学の進歩により新たな治療法が次々と導入され、治療効果に甲乙がつけがたい状況が増えてきました。たとえ優れた医師であっても、得意とする技術や持っている情報には限りがあります。したがって、ある医師の治療法が絶対に正しい唯一の治療法とは限らないこともあります。そこで、患者さんが複数の治療法の選択肢を知り、納得した上で医療を受けられるために、セカンドオピニオンは重要な役割を果たします。

 以下に、幾つかの資料から、セカンドオピニオンの理念を表す部分を引用します。

【資料1】患者の権利章典 (1973年採択)アメリカ病院協会

3.(中略)患者のケアや治療法に選択肢がある場合には、また、患者が医療上の選択肢についての情報を希望した場合には、患者は、それらの情報を得る権利がある。

【資料2】患者の権利章典 (2001年制定)東京都
4.十分な説明と情報提供を受けたうえで、治療方法などを自らの意思で選択する権利があります。

【資料3】医師の職業倫理指針 (2004年発行)日本医師会

第1章 医師の責務
2.患者に対する責務
(12)対診、またはセカンド・オピニオン
 医学・医療の進歩、複雑化に伴い、医師が診療上自ら解決できない疑問をもつことも多くなってきた。そういった場合には、他の医師にその患者の診察を求め意見を聞いたり(対診)、情報を提供して意見を求めることが必要である。また、医師は患者から要請を受けた場合はもとより、そうでない場合においても、必要とあれば患者に対診あるいはセカンド・オピニオンを求めることを勧めるべきである。


第3節 セカンドオピニオンの実例

 どのような時にセカンドオピニオンが必要であったり、セカンドオピニオンを利用したりするのが良いでしょうか。実例と共に見ていきましょう。

1)治療法に選択肢が幾つかあり、主治医の専門ではない治療法を他の専門医に詳しく聞きたいとき

(例1)54歳の男性、Aさん
 AさんはホームドクターにM病院のN医師を紹介されました。検査の結果、肝臓に2〜3センチの癌が2個見つかりました。AさんはN医師に「即入院、手術」を勧められました。Aさんは肝臓癌について勉強したところ、手術以外にも肝動脈塞栓療法、エタノール注入療法、マイクロ波焼灼療法、ラジオ波焼灼療法などの治療法があることがわかりました。
AさんがN医師と相談すると、N医師の専門の治療法ではないため「セカンドオピニオンを推進させる会*1(以下、「会」と略)」にセカンドオピニオンを申し込みました。
 セカンドオピニオンを聞いたAさんは侵襲性が少ないラジオ波焼灼療法を選択しました。

2)主治医の診断に疑問があり、説明や質問を繰り返した後も納得できないとき

(例2)60歳の男性、Bさん
 会社の健診で食道付近にカゲがあるといわれ、近くの病院で精密検査を受けたところ、医師から「食道の外側に腫瘍があるのですぐ手術が必要です」と説明されました。「腫瘍、手術」と言われ、Bさんの脳裏をよぎったのは「食道がん」でした。「もしかしたら死ぬかも知れない」と強いショックを受けました。「がんであるのならもっと専門的な病院で、進行具合ももっと詳しく聞いたうえで手術を」と思い、会に申し込みました。
 Bさんは、会から紹介された食道外科の専門医のところへ、検査データを持参して受診したところ、専門医の診断は意外でした。「食道平滑筋腫といって良性の腫瘍です。定期的に観察して大きな変化がなければ、手術をしなくてすむかも知れない」。
 その時のBさんの心境は、「がんでないことがわかっただけでも大変な喜びです。しかも手術をしなくてもいいというのですから天国に上ったような心地でした」。


3)主治医の治療法に疑問があり、説明や質問を繰り返した後も納得できないとき

(例3)41歳の女性、Cさん
 県立病院で子宮筋腫と子宮内膜症と診断され、「子宮の摘出はしなくていい」という治療方針のもとにホルモン療法を受けたが、微熱やだるさ、不安感、自律神経失調症に悩まされました。Cさんは治療法に懐疑的になり、会にセカンドオピニオンを申し込みました。
 会で紹介された専門医の意見は「現時点では薬による治療を続け、5ヶ月して症状が変わらなければ、摘出をしたらどうか。ただ、今の薬はあっていないので、別の薬にしたほうがいい」というものでした。
 Cさんは転院を決めました。その理由は、「前の医師はただ“摘出しなくていい”と言うだけ。今回の先生は“薬物療法がだめなら摘出しましょう”と治療方針を詳しく説明して
くれ、とても安心しました」。


 2)や3)のような例を見ますと、多くの医師の診断や治療に疑問を抱いてしまいそうですが、セカンドオピニオンを推進させる会の代表である中村康生さんによりますと、主治医と意見が違うケースは1割程度で、ほぼ同じ意見というのが9割です。意見が同じ場合、患者さんは主治医への信頼感が増し、主治医のもとで安心して治療を受けられるそうです。次の例4は、主治医の意見とセカンドオピニオンが一致した例です。

(例4)28歳の女性、Dさん
 髄内腫瘍(脊髄の腫瘍)に対して主治医は手術を勧めました。難しい手術であるため、術後に麻痺が残るリスクもあると説明されました。髄内腫瘍に対してはガンマナイフという選択肢もあり、Dさんはその治療に実績のあるO病院を会から紹介されました。
 セカンドオピニオンは「腫瘍の位置がガンマナイフには不適応で、主治医が勧める手術が適している」とのことでした。それでDさんは納得して手術を受けられました。


*1 セカンドオピニオンを推進させる会 1998年発足。全国約800名の専門医が協力。
セカンドオピニオンにふさわしい専門医を紹介している会。
   ホームページ(http://www.h5.dion.ne.jp/~life-so/index2.html)
   例1〜4はいずれも、セカンドオピニオンを推進させる会から提供頂きました。




第4節 セカンドオピニオンのメリット

 前節を踏まえるとセカンドオピニオンには大きく4つのメリットがあることがわかります。

 第1に、例1から、納得したうえで自分に最適な治療を選ぶ判断材料となることがわかります。資料3の指針に基づいて医師がセカンドオピニオンを勧めるだけでなく、患者さんもご自身の病について勉強することで、より納得の行く治療法に近づくことができます。

 第2に、例2から、誤診の減少に寄与することがわかります。セカンドオピニオンを推進させる会が今までに扱った約400例のうち、誤診は8例だったそうです。医療全体として誤診は少なく見積もって2%であるかもしれませんが、1人の患者さんにとっては100%の間違いですから、セカンドオピニオンで防げるものは防がなければなりません

 第3に、例3から、説明不足の減少に寄与することがわかります。セカンドオピニオンが後に控えていれば、医師は自分のできる限りの説明をしようという意識が高まるからです。

 第4に、例4から、初めの主治医とセカンドオピニオンが一致したとき、患者さんは主治医への信頼感が増し、より良い患者医師関係を築くきっかけとなります。



第5節 セカンドオピニオンの普及度

 セカンドオピニオンは現在どのくらい普及しているのでしょうか。
 2002年4月から、セカンドオピニオンは医療制度の中に組み込まれ、セカンドオピニオンを行っていることを医療機関は知らせることができるようになりました。以来、セカンドオピニオンは急速に広まりました。『医者がすすめる専門病院』(ライフ企画)*2によれば、そこで挙げられている670の診療科のうち630科、すなわち94%の診療科が条件*3なしでセカンドオピニオンの受入れを行っています。ですから、「患者さんが思っている以上に対応はしっかりしています。患者さんはどうしても「言いづらい」という気持ちが残りますが、医療者の意識はかなり進んでいます」(中村康生さん)。

 また、セカンドオピニオンに必要なカルテ開示や検査データの貸出に関しては、条件*4付で可であるところを含めると共に98%の診療科で可能です。
 

*2 専門医数百人に「ご自分やご家族が重い病気にかかった時にどの病院の科を受診しますか」とアンケートし、基準票以上を獲得した診療科を紹介した本。セカンドオピニオン受入れの情報だけではなく、症例数・治療成績などのデータも公開している。
*3 条件とは「主治医からの紹介状が必要」「外科的処置が必要な患者さんに限定している」「専門外来で受け付けているので科としては対応していない」などです。条件付で可とした29の診療科を含めると670の診療科のうち659科、すなわち98%の診療科がセカンドオピニオンを受入れていることになります。
*4 条件とは、カルテ開示に関しては「病院内の規則にそった手続きが必要」「守秘義務に反する場合は不可」などです。検査データの貸出に関しては「病理切片は貸出できない」「10年分や20年分というようなものは対象外」などです。



第6節 セカンドオピニオンに関しての誤解

 セカンドオピニオンの本来の姿を、第3節の例を振り返って見てみましょう。

1)治療法に選択肢が幾つかあり、主治医の専門ではない治療法を他の専門医に詳しく聞きたいとき
2)主治医の診断に疑問があり、説明や質問を繰り返した後も納得できないとき
3)主治医の治療法に疑問があり、説明や質問を繰り返した後も納得できないとき

 いずれにも共通していることは、セカンドオピニオンはインフォームドコンセント(ファーストオピニオン)が前提であることです。そのためには、主治医はしっかりとわかりやすい説明をしなければいけません。そして、患者さんは主治医の説明を聞き、質問を繰り返し、その後にセカンドオピニオンを求めてこそ、より良い治療法へ近づくことができます。その過程を経ないで他医を巡り歩くことはセカンドオピニオンとは言わず、ドクターズショッピングと言います。ドクターズショッピングのデメリットは、検査をもう一度やり直すため、患者さんの心身・時間・コストの負担が増加します。

 ただし、医師にいくら説明を求めたり質問をしたりしても応じてもらえない場合は、セカンドオピニオンが成立しないだけでなく、良い患者医師関係を築くことはできませんか
ら思い切った転院も考えられます。

 東大病院の先生によりますと、だいたい半分以上の方は純粋なセカンドオピニオンで、「この病院では、治療A、治療B、治療Cを勧められたけれど、客観的な第3者の意見はどうでしょうか」というものです。2割くらいの方は何となくどこの病院も不満でぐるぐる回っているというもの、残りの3割くらいの方は「初めの病因が少しレベルの低い病院で不安があるので、より高度と思われる病院を訪ねてきた。なるべくならこちらで治療を受けたい」というような割合だそうです。



第7節 セカンドオピニオンに関しての課題と提案

1)セカンドオピニオンをいかに利用しやすくするか
 アメリカでは癌の患者さんに対しては、医師が「セカンドオピニオンを聞きますか」と一言添えることになっています。これは、患者さんがセカンドオピニオンを求める権利を有していることを伝えるとともに、患者さんが「セカンドオピニオンを聞きたい」と切り出しにくい心理に配慮したものであると考えられます。

 セカンドオピニオンがここ数年急速に普及してきているといっても、医師への慮りが強く、自己決定という概念が希薄な傾向にある日本ではなおさら、患者さんからセカンドオピニオンを求めたいことを伝えることは抵抗感があるのではないでしょうか。僕自身が患者さんの立場になってセカンドオピニオンを求めたい旨を切り出す所を想像しますと、「この先生を裏切ってしまったかな」とか「先生の言うことを聞かないと関係が悪くなるかな」などという一抹の罪悪感や不安を抱いてしまうことがあると予想されます。

したがって、資料3などに基づき、医師はセカンドオピニオンの必要性をよく見極めて患者さんに勧めるべきです。その際、「セカンドオピニオンを聞いてみますか。それから決めても遅くはありません、大丈夫ですよ。それから、セカンドオピニオンを聞いて治療方針が同じであれば、私のところでよければいつでも全力を尽くします」といった患者さんへの配慮の一言を忘れないことが望ましいと思います。

 また、セカンドオピニオンを受入れたり勧めたりすることができる医療機関は、その旨を掲示した方が患者さんにとってわかりやすいですし、セカンドオピニオンに対する心理的な垣根が低くなるのではないかと思います。

2)セカンドオピニオンの料金をどうするか

 現在、日本ではセカンドオピニオンの料金設定は自由です。初診料(2500円)+読影料のところから1時間2万円というところまで様々です。1時間2万円が高額か低額かを一概に決めることは難しい所があります。セカンドオピニオンは少なくとも30分から1時間はかかるうえに保険点数がつきませんので、あまりにも低額で行うと病院は破産してしまいます。ですから、初診料+読影料だけで行っているところは採算がとれているかという疑問も残ります。国立がんセンター中央病院ではベテランの医師がセカンドオピニオンを担当しているため、30分1万円という設定です。医療機関によっては患者さんが多く、医師は30分の時間をとることも難しいそうなので必要な対価であるという考え方です。

 「命にかかわるセカンドオピニオンなのだから1万円かけてもいい」と思える方もいれば、1万円を捻出するのにも大変な方もいると思います。後者の方のことを考えて国民皆保険という理念を活かすならば、セカンドオピニオンを保険診療にすることが理想です。しかし、そのためには保険料の上昇が避けられません。悩みどころです。

 政治家Aは「保険料をある程度上げてもセカンドオピニオンを保険診療にする」という公約を掲げ、政治家Bは「保険料はこのままで、セカンドオピニオンの料金は医療機関任せで行く」という公約を掲げて立候補をしたら、どちらに投票されますか。

3)セカンドオピニオンの質をいかに確保するか

 今や、セカンドオピニオンを拒否する医療機関・医療者はほとんどないと言っても過言ではありません。セカンドオピニオンは患者さんのQOL(生活・生命の質)に直結することですから、それを拒否する医師に対しては疑問を持たざるを得ません。ですから、それを回避するために医師はこぞってセカンドオピニオンを掲げることになります。セカンドオピニオンを引き受ける医師が主治医と同等以上の力があれば問題ありませんが、主治医よりも力が劣る場合、患者さんは適切な治療から遠ざかってしまう可能性もあります。

 したがって、セカンドオピニオンを受入れる医療機関は治療数・治療成績などの情報を公開すべきだと思います。



第8節 おわりに

 僕はセカンドオピニオンを求めなければならないほどの大病をしたことはありません。しかし、もし自分が大病をしたとしたら、セカンドオピニオンというシステムがあった方が――それを利用するかしないかは出逢った医師などによりますが――絶対に望ましいのではないか、という考えからセカンドオピニオンについて書きました。

 至らない所が多々あるかとは思いますが、ご参考になる所がありましたら幸いに思います。