2004年東大医学部5月祭 「現代医療の羅針盤」〜東大医学生の航海〜より

「がんを支えあう」

東京大学医学部4年 小林 央

現在、がん治療中の患者と、治療を終えた生存者を合わせた数は290万人と推計されている。国民の40人に1人にあたる。2015年には530万人に達すると試算されている。これほど多くの人が体験する疾患でありながら、現代医療が患者さんの必要とするものを全て提供できているかといえば、残念ながら現状では不十分と言わざるを得ない。現在の医療の中ではがん自体の治療に主眼が置かれるが、退院後の生活や必要な情報についてのサポートは不足している。今回私たちは、心の問題も含めてがん患者をサポートする活動を行っている方々にお会いし、話をうかがう機会を得た。その中で今後のがん医療のあり方を示唆する貴重な意見も授かった。現在の日本では、医療の中での患者会やサポートグループの活動の認知度はそれほど高くなく、お互いに協力し合うということも一部に留まっている。ここでは「がんと向き合う選択枝」の一つとして、それら患者会、サポートグループの活動を紹介するとともに、今後ますます増えるであろうがんを体験した人(サバイバー)と患者と医療との関わりを考える。

がんにおける心理・社会的な問題

がん治療が近年進歩したために、昔よりも患者さんががんとともに生きる期間は長くなった。その意味でがんは慢性疾患であるといえる。その際、ただ治療にとどまらず、いかにがんと向き合いながら生活するかということが重要な問題となる。

最近、厚生労働省のがん助成金研究で静岡がんセンターの研究結果の一部が新聞各紙で取り上げられ、がん患者の53%が再発の不安を抱えているなどの結果が報告されていた。もちろんこれはがんを抱える人の悩みの一側面に過ぎないが、がんという病気が決して単なる肉体的な障害に留まらず、心理・社会的な障害をも生み出す疾患だということを改めて示した結果である。

がんは手術などで除去しても、同じ部位に再びがんが発生(再発)したり、別の部位にがんが飛び火して成長(転移)したりすることがある。近年は再発・転移に対する治療が進歩したとは言え、一度治療した人を再びがんの現実に引き戻す再発・転移は依然として恐ろしい病態である。がんの治療を終えた後でも、ちょっとした体の不調(例えば背中など痛いところがあったり、めまいや吐き気があったりするなど)がしばしばがんを思い出させる要因となる。不安が原因で眠れなくなることもある。しかし治療を終えて退院した後は、周囲に医療者はおらず、適切なアドバイスを受けたり、相談したりするのは難しい現状がある。体のむくみ(浮腫)や痛みといった身体的な苦痛と不安が重なって、孤立感や絶望感を覚えることも稀ではない。

また、がんを抱えることで家族との関係や職場での人間関係も変化を生じうる。ひどい場合には職場でがんのことを話すことで退職を余儀なくされる事例もある。そこまでいかなくても、がん治療による長期休職は仕事にも差し障るし、それを周囲の人にどのように説明するかという問題もある。自らががんにかかっていると明かしても、時には周囲の人の気遣いが気持ちの負担になることもあるだろうし、話さなかった場合には周囲の理解も得にくい。家族ならば全てを理解してもらえるかというとそういうものでもない。ともに病と闘うことで絆が深まったということもあるが、逆に家族が患者さんに必要以上の家事を要求したり患者さんが家族に多くを期待しすぎたりするなどでいざこざになることもある。家族は患者さんを支えることが生活の中で大きなウェイトを占めることになり、しばしば生活に困難をきたすことにもなる。親戚や知人や友人も励ましてくれはするが、なかなかそれが患者さんにとっては助けにはならない。励ます側もただの同情であったり、うわべだけの助けだったり(健康食品の紹介など)することも多く、患者さんの側にしても「健康な」人には気持ちがわからない、と考えてしまうのである。

上に挙げた不安や人間関係についてだけでなく、治療や生活の情報をいかに得るかという問題もある。治療後に後遺症が残った場合どのような生活を送ればよいか、医者との関係をどうするか、今後の治療計画をどう考えればよいか、セカンドオピニオン(主治医以外に治療に関する意見を求めること。第一部を参照)を得るには、などである。またもっと日常的なことでは食生活はどのようなものがよいか、リラックスするいい方法はないかなどが挙げられる。インターネットを始めとするメディアの発達により情報源にはアクセスしやすくなっているが、情報が氾濫しすぎていたり偏っていたりするなど適切な情報を選び出すのは至難の業である。インターネットに慣れていない人にはそのような情報に触れることも難しい。

病院はそのような相談を受ける窓口にはなりえないのだろうか。一つには主治医に相談するということが考えられるが、外来診療の中では「3分診療」という言葉に象徴されるように細かい話を聞く時間はなかなか得られない。また、入院中であっても患者さんとしてはなかなか本当の気持ちを医療者、特に医師には伝えにくいことが多い。それは時として病院や医療への不満であり、医師の機嫌を損ねかねないと考えるからである。しかし治療方針は患者さんと医師とがお互いに考えながら決めていくのが望ましいので、まずは主治医を相談相手と考えておくのがよいだろう。
医師には話せないことを話す場として、いくつかの病院では医療とは別の枠で相談所を設けている。たとえば静岡がんセンターでは「よろず相談」という形で病院とは独立した形でさまざまながんについての相談をソーシャルワーカーが受け持ち、病院の専門職員と連携して悩みの解決に当たっている。他にもいくつかの病院がこのような試みを行っているが、全体としての数はそう多くはない。その原因の一つとして、そのような相談所にかかる費用が病院の自己負担となってしまうことにある。こういった医療行為以外の活動には保険適用がないためである。また、先に挙げた「3分診療」問題と同様、人手も不足しており、なかなか相談所のような機関が病院にはできにくい状態にある。


患者会・サポートグループの活動

がんの患者会やサポートグループでは、患者さん、がんの治療を終えた人(サバイバー)、あるいはその家族同士が話したり、親睦を深めたり、旅行などの活動を行って充実した生活を提供したり、様々な悩みについての相談に乗ったりするなど、医療行為以外の部分で患者および家族をサポートしている。

多くの会では活動の中心は分かち合いである。分かち合いとは自分の体験を語る場である。同じ体験をした人同士だからこそ理解できる悩みもあり、それを打ち明けることで気持ちの整理ができ、またそこでしか知りえないがんとの向き合い方、生活の知恵などが得られるという発想の下でそのような活動が行われている。

会の種類は多岐に渡っている。どのような種類のがんかを特定せず、様々ながんを抱えた人に開かれた会もある一方、がんになった臓器ごとの集まり(特に乳がんなど)もある。そのようなところのほうが情報は詳しく、状況が似ているので理解しやすい、話しやすいといったメリットはあるだろう。他には、がんに伴う後遺症(リンパ浮腫など)の悩みを抱える人の集まる会や、大腸がんの手術後に人工肛門をつけることになった人が集まる会などもある。会の目的は、お互いに支えあうことを目的とするところから、抗がん剤の認可などを求める団体もあり、活動は会によって幅がある。
今回私たちは3つのグループ(うち1つは代表の方)を訪問させていただき、会に参加された皆様から多くの話をうかがった。なるべく客観的に紹介したいという立場から個人的な感想などはここには書かないことにする。そのためこの文章を読んでいる方にはあまり面白みのない紹介になってしまうかもしれないが、それぞれの会で得た経験は今回の五月祭の発表という場に限らず、私たちが今後どのように医療と関わっていくかをずっと考えさせてくれる貴重なものであったことを強調したい。


支えあう会「α」    ホームページ: http://www.icntv.ne.jp/user/alpha/

支えあう会「α」は看護師であった土橋律子さんが代表をしており、世話人の皆さんとともに会を運営されている。土橋さんは、病院勤務の中で感じた医療の矛盾と数回にわたるがん体験から、何ががんを抱える人に必要かを考えて会を設立された。月に一度の「分かち合い」では参加者がそれぞれの体験を語る場となっており、またお互いの交流を深めている。それ以外に電話相談による相談、気功の講習を行っている。がんの患者さんをただ支えるというのではなく、逆に患者さんが他の人を支えることにもなるという理念、がんは人生の「+α(アルファ)」であるという考えが会の名称には込められている。土橋さんは、ただ患者だけが集まる会にするのではなく、また医療者に対して患者の権利をただ訴えるだけの会にするのではなく、医療者とお互いに歩み寄ることができれば、地域と病院とが連携したがん医療につながるという考えを持っている。


どんぐりの会    ホームページ: http://www.dongurinokai.jp/

 現会長の椚計子さんとその御主人の椚総氏は、昭和62年に行われたがん患者を含むメンバーによるモンブラン登山に参加され、それに対する反響がきっかけとなって会を設立された。毎月の定例会での話し合いが主な活動であり、毎回30人から60人が参加している。一次会である定例会に続いて、二次会が催され、食事を取りながら参加者同士が一層親密な交流を行っている。それ以外に年二回ほどのレクリエーション旅行を通し、生活を楽しむ活動を実践している。講演会の開催も行い、医療関係者や他の患者団体とのコミュニケーションを学習の機会と位置付けている。現在、会員の輪は全国に広がっている。


ジャパン・ウェルネス     ホームページ: http://www.japanwellness.jp/

ジャパン・ウェルネスでは代表の竹中文良氏にインタビューをした。竹中氏は自身ががんを体験した医師であり、その中で医師が見たがん医療と患者として見たがん医療のギャップ、がん患者のサポートの必要性を痛感してサポートグループの設立に尽力された。ジャパン・ウェルネスはアメリカのThe Wellness Communityという大規模なサポートグループの日本支部という形で運営を行っている。他の多くの患者会と異なり、NPO(非営利組織)として、運営母体が存在して様々な活動を患者さんに提供している。小グループ(臓器別・全般含め、家族のためのグループなど)に分かれて、話し合いをするグループ療法がもっとも重要な活動であることを竹中さんは強調していた。その中では医師や臨床心理士が司会を務めるがあくまでも患者さん同士の話が中心となっている。これとは別に医師によるセカンドオピニオンを聞く機会もあり、こちらも多くの需要がある。いくつかの坐禅・アロマセラピー、ハーブといった代替療法についての講習会も企画されている。他に旅行、講演会や講演会などもある。会員であればそれぞれの企画に独立で参加することができる。


それぞれのグループで理念は異なっているが、話し合いの中で悩みを解決しようとする姿勢は変わらない。また、様々な活動を通じて、日々の生活の中で生きがいを見出すサポートも行っている。患者自身が、よりよい状態に持っていこうとする姿勢、がんと向き合う姿勢も求められているだろう。

当然、患者会・サポートグループに参加することが全ての人に良い結果をもたらすかはわからないし、どのグループが自分に合っているかもわからない。まずは、どのような会があるのかを調べることから始め、それらの会の特徴を知った上で、自分で実際に参加してみるのが一番だろう。

その上で、米国の国立がん協会 National Cancer Institute (NCI)では以下のような点を参考にすることを勧めている。

人といることは楽しいか、話す準備はできているか、他の人の体験を聞きたいか、他の人が参考にできる話はあるか、他の人に話すと気は楽になるか、異なる境遇の人の話も聞くことができるか、がんと生活について学ぶ気持ちがあるか。
また、会を選ぶ際の基準として
どのくらいの規模の会か? どのような人が参加するか(サバイバー、医療者、臓器別かなど)、会の長さ、集まる頻度、会の歴史、どのような人が主宰するか(サバイバー、医療者)、会の形式はどうか、会の目的は何か(気持ちの交流、情報の提供)
などが同じくNCIでは挙げられている。

参加し始めの頃は、なかなか話すべき話題が見つからないこともあるだろう。私たちがうかがった会では、聞くだけの参加でもよいしそのうち話もできるようになるということであったので、必ずしも話すべき内容を最初から持っている必要はないだろう。

人によってはこういったグループへの参加がためらわれる場合もある(自分の気持ちを積極的に話したくない、他の人の話を聞きたくない、手術後の容姿や後遺症を気にして、など)。あるいは健康状態などで参加できない場合、患者会が遠くて参加しにくい場合、などがある。それでも、理解者に話を聞いてもらうことには意味があると考えられる。医療従事者、ソーシャルワーカーおよびサバイバーと話し合える機会があることが良い。残念ながら現状では冒頭で述べたように相談の機会少ないのだが、

サポートグループの中には、αのように電話相談を行っているところもあるし、ジャパン・ウェルネスのように医師によるセカンドオピニオンを受ける機会を設けているところもある。また、いくつかのウェブサイトやメーリングリスト(多くの人に同時に電子メールを配信できるシステム)ではインターネット上での相談を受け付けている医師・看護師がボランティアで参加していることがある。患者会や患者の個人ホームページには掲示板(そこに入力することでインターネット上に自分の意見を公開することができるシステム)が設置されており、患者さん同士が体験を語り合う場となっているので、そのような場を利用するのも良いと思われる。ただし、インターネット全般についていえることだが、文字情報だけのため齟齬が生じることもあり注意が必要である。ジャパン・ウェルネスでは野村総合研究所などとの共同研究で、インターネット上に患者会と同じような話し合いの場を設ける実験を行っている最中であり、今後のこの分野の発展も期待される。

どのような患者会があるかは、「全国患者会障害者団体要覧」(プリメド社)や、M&R社ホームページ(URL: http://www.e-mandr.com)の「お薦めリンク集」などに紹介されているが、いずれも全てを網羅しているわけではないことに注意されたい。インターネットで調べる場合は、ある患者会やがんの患者さんの個人ホームページから別の患者会へのリンクが張られている場合があるので、それらを参考に調べることができる。また、がん患者・家族を対象にした雑誌(「月刊がんもっといい日」、「がん治療最前線」、「がんサポート」、「がんを治す完全ガイド」などが一般書店で購入できる)の中には定例会についての情報が書かれているので、そちらも利用することができる。


がん体験者とがん患者と医療

前節の代替医療の部分でも述べたが、主体的に自分の体や心と向き合うことが、心をよりよい状態に持っていくことになる。近年はサイコオンコロジー(精神腫瘍学)という分野が注目されているが、その中では心をよりよい状態に保つことが、体をよりよい状態に保つことにつながるとも考えられている。

 がんの患者会に参加することは、支えあうことによって悩みを軽減したり、情報を得たりするだけでなく、自分自身が病気と向き合おうとする過程でもある。それは主体的にがんと生活する方法であり、医療に自分の体をお任せにしない姿勢である。患者会やサポートグループはそういったがんとの向き合い方を考えさせてくれる場としての意味があるという意見を取材の中でうかがってきた。がん体験者や他の患者さんは、その際にがんの先輩として、さまざまな意見を聞き、また与えてくれる存在である。そのような役割は医療関係者であってもがんの体験者でなければ果たすことは難しい。だからこそ、医療関係者も患者会やサポートグループを広い意味での医療と捉え、協力していくことが必要だろう。

 患者会に課題がないわけではない。例えば、多くの会の場合、その運営を少数のボランティアが担っておりその人たちへの負担がどうしても大きくなってしまう。収入源を参加者の会費に頼らざるを得ないという面もある。また、医療者と患者会との協力と言っても、もし医療者が患者さんに患者会を紹介する際、現状では患者会を評価するような仕組みはないため、どこが患者さんに合っているか判断することは難しい。逆に特定の会に多くの人を紹介すると、個々の会の活動には限界があるため全員を受け入れることはできない。

 加えて、冒頭で述べたとおり、日本の社会、あるいは医療の中ではそれら患者会・サポートグループの良い点はなかなか認知されていないのが現状である。一つには、医療者には患者の生活の一部分しか見えないことが多く、心理・社会的なサポートの必要性を実感する機会に乏しいということがあるだろう。また、患者の立場から見ても今まで医療者にそのような意見を訴える機会は少なかったと考えられる。背景には、誤解を怖れずに言うと、医療者の家父長的な考え方(患者は自分達の助けを求めているはずだ、患者は自分達の意見を聞かなくてはならない)と患者側のお任せ主義(自分の体は医者に任せればいい、医者にたてついてはいけない)がお互いの理解を阻んできた、という医療者と患者の間の壁があるとも言える。医療者と患者という立場を考えれば、両者の壁が完全に消え去るということは考えにくいが、医療者は患者の生活や置かれた境遇について思いを巡らせることができれば、患者会やサポートグループと協力していくという発想は自然に生まれてくるだろう。今後は医療者と患者との関係というのも変化していくと考えられる。その中でお互いがコミュニケーションの中で理解しあっていくことで、患者は医療者に何を求めるのか、逆に医療者は患者に何を求めるのか、ということが双方に明確になるだろう。その積み重ねがよりよいがん医療につながることになる。

医療者は何から何までがんの患者さんの心理・社会的サポートを患者会・サポートグループに任せてしまえばよいというものではない。医療者に求められているのは、がん患者のサポートということを、病院の外でのことと考えるのではなく、医療の枠組みの中で考えていくことである。その一つの試みとして、積極的に病院の中にがんの患者さんのためのサポートグループの活動場所を提供することが挙げられる。その際に適切なサポートができる人材が会の中に必要となる。臨床心理士、社会福祉士といった専門家はもとより、一般のがんサバイバーも病院が育成することで、より患者さんのニーズにあったサポートを提供することができるかもしれない。これらの活動については、患者会・サポートグループでノウハウが蓄積されているのだから、医療者は患者会の活動、あるいはがん体験者の意見から積極的に学ぶ姿勢も求められるだろう。

 今後ますます増加すると予想されるがん体験者と患者が、よりよいがんとの向き合い方を実現する場として患者会やサポートグループが役割を果たしていくのではないかと考えている。

最後になりましたが、支えあう会「α」、どんぐりの会の皆様、インタビューに応じてくださったジャパン・ウェルネスの竹中文良様に感謝の言葉を述べたいと思います。